ちょっと不思議なショートショート

10秒から10分の間に読めるSF短編を淡々と上げていくブログです。

 よお、久しぶりだな〇〇。△△だ。本来なら、「拝啓」から始めるのが筋ってもんだが、お前も俺に学がないのは知ってるだろう?大目に見てくれ。

 聞いたぜ、お前、今、□□大学にいるんだってなあ。昔から頭良かったけど大したもんだよ。  

実はさ、今日お前に手紙を書いたのは、分け入って、お前に頼みたいことがあるからなんだ。  

 馬鹿な頼みだとは思うが、妖怪とかお化けについて詳しい知り合いを、俺に紹介してくれないか。  

 □□大学くらい優秀な大学だったら、そういう奴も一人くらいいるんじゃないかと思ってな。お前だけが頼みなんだ、よろしく頼む。

   

 ps 今度の旧クラス会来いよ。

 

 クラス会で会えなかったのは残念だったが、大学生も色々と忙しいみたいだからな、次に会える時を楽しみにしてるぜ!

 …本当に会ってないもんな俺達、最後に会ったのいつだったけ?中学三年の夏休みだったか?懐かしすぎる!

 ああ、後、最近お前のお母さんに会ったよ。手紙くれてありがとうってさ。

 …お前さ、もしかしてこうゆうこと逐一お母さんに報告してるのか?もう二十歳なんだから親離れしたほうがいいぜ!

 さて、本題に入るか、この前は変な頼み事して悪かったな。さすがの□□大学でも、物好きな奴はそうそういないってことか。でも、返事くれてサンキュな。

 実は、この問題は、自分だけで解決しそうなんだ。だから、心配しないでくれ。じゃあな、また手紙書くよ。

 

  ps  ドッペルゲンガーが側にいるっていったら、お前は笑うか?

 

 よお、前の手紙から三ヶ月ぶりだよな、久しぶり。

 ところでさ、お前、前田優香って覚えてるか。中学の時の学園のマドンナ、あの、めちゃくちゃ可愛かった子。

 なあ、驚くなよ。あいつ、俺の女になったんだよ。信じられないだろ!?

 付き合うようになった経緯は説明しないけど、優香の奴、俺が有名企業に勤務してるって本気で思ってるんだぜ。カラオケボックスでフリーターしてる俺をな。

 いやあ、「噂」の力ってスゲーよな。  〇〇、お前にだけは俺の秘密を教えてやる。

 俺は今、「噂」を操る力を持ってる。いや、正確には「噂」を操れるドッペルゲンガーと仲良しなんだ。…なんのことか分からないだろ?俺もだ。そいつのことも、そいつの力もよくわからない。ただ一つ確かなのは、「噂」を操る力を使うには、その代償としてドッペルゲンガーの要求する「噂」を広めなければならないこと。

 ●●市議会議員は不倫しているらしいぜ。

 こんな風にな。

 …悪いな、お前のこと、利用する感じになっちまって。チェーンメールみたいに、お前がこれを広げる必要はないからな。

 今日はこれぐらいにしておこうか、じゃあな、〇〇、また手紙書くよ。でかすぎる秘密は人に話したくなるもんだ。

 

   ps  デート費用稼ぐために株でも始めるかな  

 

 思った通りだ!株と「噂」の力は相性抜群だ。市場なんて人の噂の渦みたいなもんだ。「噂」を操れる俺が負ける訳がない。よかったな、お前への祝儀も弾んでやるぜ。

 それにしても、お前も人が悪いな。結婚するなら結婚するって書いてくれればいいのによ。友達づてに聞かされた時はチョットばかしショックだったぜ。なーに、高校時代はモテまくってたらしいお前のことだ。いい女を捕まえたんだろ?結婚式呼べよな。

 さて、俺の秘密の話をするか。俺のドッペルゲンガーなんだがな、これは都市伝説にあるものとは大きく違ってる。まず、鏡の中にしか姿を現さない。それに、俺の目に映るのも電話の子機みたいなもので、どうやら本体は俺の目に映らない所にいるらしい。鏡の虚像に信号を送って話しかけて来るんだとさ。

 そうなるとドッペルゲンガーって名称も間違ってる気がするな。

 …決めた!これから「噂の人」って呼ぶことにするぜ。

 あと、奴の話では、俺は「噂」を広める素質があるらしい。奴に褒められたら一級品だよなあ。

 ああ、そうだ。  

 △△山、近々噴火するらしいぜ。  

 

 ps  ××不動産倒産するらしいぜ。  

 

 よお、結婚式の招待状まだ届いてないんだが、早く送ってくれないか?結構仲良かったし、それに、今は秘密の共有者だろ?

 後、最近さ、「噂の人」と親しくなってきたんだよ。世間話みたいなものもするようになってきてさ。

 奴の話は案外面白いんだよ。  

 〇〇はさ、人のウワサには、二種類あるって知ってるか。

 噂と「噂」だよ。

 噂は情報で、「噂」は虚構。噂は、猿にだって使える。あそこの川のほとりに果物がなっているらしい、あそこの丘は、他の群れの縄張りらしいってさ。

 だが、「噂」は人間だけのものだ。

 存在の根拠のある神はいるか?

 クレジットカードでやり取りされる数字に実態はあるのか?  

 虚構だ、火のない所にたつ煙だ。

 文明の中で生きる人間はこの「噂」のベールの中にしか存在できないらしい。

 そして、「噂の人」はこの外側にいる、だから、内側の俺らにはその本体は知覚できないらしい。

 「らしい」ってさ。面白いよな、この話だって奴らの「噂」に過ぎないかもしれないんだぜ。

 こんなことを考えてると頭が痛くなってくるよ。痛い、本当に痛いな。

 ああ、そうだ。糸田亮は麻薬に手を染めてるらしいぜ。…そいつは、彼女を奪った間男の名だ。俺を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる。

 

   ps  結婚式呼べよ  

 

 なぜ、結婚式の招待状を送らない?もしや、結婚は「噂」でしかないのか?何故そんなことをする?見栄か?意味のないことだろ。

 …ああ、もしかしてそういうことなのか?

 

 なるほど、お互い手遅れだな。

 

   ps  ………  

 

 「噂の人」が言うには、俺には素質があって、もう十分な力を持っているらしい。

 しかし、あと一つ、「噂の人」になるには、超えるべきステップがあるらしい。

 「噂」とは、火のない所にたつ煙のこと。

 根拠がこの世にあっては行けない、そして、この世に語り手がいてもいけない。

 死ぬという意味じゃない。虚構のベールの外側にいなくてはいけない。 

 つまり、俺は死んだらしい。

 「俺は死んだらしい」、「俺は死んだらしい」  「俺は死んだらしい」、「俺は死んだらしい」  「俺は死んだらしい」  

 

 この言葉を言う度、綴る度、自分の存在が薄れていくのを感じる。

 心臓は動いているのに、周りの奴らには、俺が死んだものだと刷り込まれていく。

 もし、目の前に俺がいても、ベールの内側にいる彼等に、俺を知覚することはできない。

 俺と〇〇は真逆だ。

 そうだろ〇〇?  

 

 

 お前確か…中三の夏休みの最後に、交通事故で死んだよな?

 

 

 だけど、お母さん、あんたは、息子の死が受け入れられなかった。

 だから、「噂の人」に頼んでいろんな噂を立てたんだよな。

 「〇〇は高校でモテてるらしい」

 「〇〇は□□大学に受かったらしい」

 「〇〇は結婚するらしい」

 その「噂」は俺達の頭に〇〇は生きているものだと、そう刷り込ませた。

 そして、あんたの頭にも。

 筆跡も真似て、文通するくらいだ。あんたの中では本当に〇〇は生きているのかもな。  

 だがもう、終わりだ。

 あんたもやがて「こっち」側に来ることになる。だから、俺は、あんたのしがらみをスッパリ切ってやることにするよ。  

 

 

 ps 「〇〇は死んだらしい」